『アフターマン』読書メモ

進化のしくみ

 受精によって他の個体の配偶子と結びついた配偶子は一つの完全な細胞になり染色体が2倍になるが、この段階が済むと直ちに分裂し始め、双方の配偶子の遺伝的特徴を備えた新しい生物体に成長する。
 植物や動物はこうした複雑な仕組みのお陰で繁殖し、固有の特徴を代々伝えていくが、この仕組みを繰り返し辿るうちに、突然変異によって遺伝子がわずかに変化することがある。生物が進化できるのはこのためである。
 遺伝子が突然変異で変化すると、その遺伝子を含む細胞からできた個体は、その変化を反映した変異個体となる。ふつうこの変化は個体にとって不利なものが多いので、その個体は競争の激しい世界で後れをとって滅び、変異した遺伝子は絶える。しかしときには、突然変異で生存競争を鮮やかに切り抜けられる有利な形質が出現することもある。
 配偶子の結びつきによる生殖、つまり有性生殖は、遺伝子の組み合わせに変化をもたらすので、同じ種に属する個体の間にかなりの幅の個体変異が生じる。進化に方向性を与える力と思われる自然選択は、この変異性を基礎にして働き、生存に有利な形質を選んで残し、生存に有利でない形質を除去する。(P17-19)

圧縮

 生物の進化は、有性生殖が作り出す個体変化の幅と、有利な形質だけを残して篩にかける環境による自然淘汰によってもたらされる。

疑問

 環境とマッチしない形質をもった個体は多くの場合死ぬ。そして一般に、生物の変化より環境の変化の方が緩やかに起こるために、急激な突然変異を起こした個体は、その形質が環境とマッチしておらず、死にやすいと言える。だから、「保守的であればあるほど、その動植物は生き残れる(P20)」。
 ところで、人間には環境を書き換える力がある。これは生物の変化よりも環境の変化が速く起こる可能性があることを意味している。人間社会においても、保守的である方が生き残りやすいというのは正しいだろうか?

多様化とガラパゴス化

 いくつかの新しい食物と生息空間とを持つ新しい環境が出来ると、自然選択によって多様化が起こる。ある動物の種が一つだけ、この新たに生まれた環境に入ったとすると、いくつかの生息空間──生態的地位(ニッチ)──にそれぞれぴったり適応したいくつかの種類に分化するであろう。新たに生まれた環境には競合する種がいないのだから、それぞれの生息空間に適応した種類は、やがては完全に新しい種になるにちがいない。こうした経過は大海原の真ん中に火山島が出現したときなどに起こる。
(略)
 鳥は空を飛べる。だから新しい島が出来ると、たいていは鳥が他の脊椎動物に先がけて到着する。ぽつんと離れた島に面白い鳥の種類が見られるのはこういう理由による。
(略)
 島には海という障壁があるので、いったん渡ってしまった個体は元の土地の仲間と交配出来なくなる。新しい種に進化するためには、こうした荒廃を防ぐ障壁が必要である。(P21-23)

圧縮

 生物は生息環境に合わせて分化・進化していく。環境と環境の境界に海や山脈などの障壁があると、分化後の形質を持った個体同士が交配を繰り返す確率が高まり、結果として元の主流群と交配出来なくなるということも起こる。

補足

 分類学では互いに交配出来ない種は別種とみなす。ところが、この分化が円を描くように起こり、隣り合う種とは交配できるが、離れた亜種とは交配出来ないというケースもある。これをクラインと呼ぶ。このようなレアケースは分類学者を戸惑わせる。

求愛行動と攻撃行動

 生物の行動は生存のために環境に向かって示す積極的な反応の表れであり、行動、そして成長、生殖の三つの要素がその生物の全体像を決めている。
(略)
 動物の行動の中では、求愛行動がとりわけ複雑である。(略) 同種であることの確認は重要な意味を持つ。近縁であっても種が違う場合、番になって子が生まれても、その子のほとんどに生殖能力が無い(不稔性)からである。種の遺伝子を後世に伝えられない以上、そのような生殖活動は、進化という観点からすれば時間と労力の無駄遣いであり、避けなければならない。
(略)
 動物の世界の闘争は、逆上して血で血を洗う争いになることはまずなく、たいていは闘争ポーズと攻撃的な示威行動をとるに過ぎない。どちらが優位かを確認し合って終わる。だから、優位を得た方は身に傷を負うことなしに争いのもとになっていたものを得るし、負けたほうは負けたほうでやはり怪我も負わず、今度は勝つかもしれない将来の争いの機会を持てることになる。(P30)

思索

 ギャル男とかホストは、ああいう「解りやすい見た目」をして女の子に声をかけることで、反応の選別を容易にしている節があると思う。ああいう格好で声をかけて簡単についていく女子は交配しやすく、そうでなければ高コストになる。

擬態

 一般的には身を守る必要から、生物は他の動物や植物──極端な例では鳥の糞──に似た形態に変わることがあり、この偽装現象を擬態という。動物が他の動物の形態を擬態する場合、大別して二つの種類がある。その一つは、捕食動物にとって危険があるとか、あるいは嫌な味があるというような動物が何種か揃って似たような体色や斑紋を獲得し、共同で防衛に役立てているようなミュラー擬態である。この擬態をした動物は一般に体色が鮮やかで目立ち、これで捕食者に警告する。第二はまったく無害な動物が、食べられない動物や危険な動物に似た体色や形態に似せて捕食者に襲撃を思いとどまらせるベーツ擬態である。このほか、捕食者が獲物に似せて接近を容易にする擬態もある。(P37-39)

思索

 ファッションも擬態だと思われる。「求愛行動と攻撃行動」の思索で書いたとおり。自分にメタデータを貼り付けて記号化する行為。

食物連鎖の10%ルール

 植物は太陽の光エネルギーをわずかしか利用できない。植物は太陽光エネルギーの1パーセントの8分の1、つまり0.125パーセント以下しか糖に変えて体内に蓄えられないといわれている。
(略)
 植食動物は植物の蓄えているエネルギーを、最高でも10パーセントぐらいしか利用できない。奇妙なことにこの10パーセントという利用率は食物連鎖の各層に共通している。つまりどんな環境でも100匹の植食動物は10匹の肉食動物の生命を維持できるにすぎない。
(略)
 この10%という比率は食物連鎖の各段階に必ず当てはまるので食物ピラミッドはつねに一定の形をしている。

平行進化と収斂進化

 同じ祖先から発生したいくつかの系統の動物が、それぞれ独自に、しかし似たような進化をたどって外見のよく似た種になった場合、それらは平行進化をしたと言われる。祖先の違う幾系統かの動物群がそれぞれまったく異なる経路を辿り、しかし結局はよく似た形態を獲得した場合は、そのプロセスを収斂進化と呼ぶ。